取材記事

【9割が殺処分】競走馬の行く末を辿る〜土佐黒潮牧場〜

「一頭でも多くの馬を救いたい」

「競馬の馬にとって、引退っていうのはうれしいことではない。じつはとても「こわい」ことなのだ。引退したら、ほとんどの競走馬は「処分」されてしまうからだ。薬で殺されて、人間の食料になったり、ドックフードになったり、肥料になったりする。これが俺たち競走馬の運命だ。」

(絵本『黒潮牧場の馬です。』より)
おっちゃん斜め
インタビューに答えて下さったのは土佐黒潮牧場(高知県須崎市)を運営する濱脇敬弘(ハマワキヨシヒロ)さん。引退した競走馬たちを引き取り、彼らが穏やかに余生を暮らすための牧場を21年間運営している。競馬界を引退した馬たちについて考えたこともなかったが、24時間365日、寝る時間を覗いて全ての時間を馬に注ぐスタッフさんは、一体どんな思いを持って馬たちと接しているのだろうか?※「競走馬の行く末
※「農林水産省平成26年度馬関係資料

「牧場を始めたきっかけ、立ち上げの経緯を教えて下さい。」

もともと中学生のころから競馬には興味がありましてね、よく見ていたんですよ。経済動物として日本も馬に対しどんどん税金をかける中、現役を引退した馬たちはすぐ処分される、そんな現実がありましてね。何とかならないのか、という思いで一頭でも多く引き取り天命を全うできるような場所を作りたいと思いました。
人間、戦時から今までずーっと馬たちに世話になっておりますしね。
土佐黒潮牧場看板

「初めて馬が来た時のこと教えていただけますか?」

59歳で始めたので、これが私の人生、悔いはないという気持ちでいました。少しでも多くの馬たちを救いたかったので、初めてきた馬にはいっぱいの気持ちを込めて接しましたね。競馬は見ていて楽しい競技ですが、馬たちをとても酷使してるんですよ。生まれてからずっと競馬場で走るために生きてきたようなものですから、引退後は特に疲れきっている子も多くてね。だからこそ、ここに来たらたくさん遊んでしっかり休み、残りの余生を楽しんでほしいと思っております。牧場を始めた頃は正直結構たいへんでしたね。何より予算の面で厳しかったです。自分の持ち金も底をつくギリギリの時もありましたし、家族総出で別のアルバイトをしながら運営していた時期もありました。他の競馬場の馬を委託で預かったりもしましたね。懐かしい思い出が多いですが、一頭、また一頭と増えることは私にとって喜びでした。やはり馬たちが喜んでる姿を見ていると嬉しいですからね。そこまで来るのに、牧場を始めて5〜6年後くらいかなあ。この頃に転機があり、平成11年にウチへ来て去年亡くなった馬がいるのですが、この子が何故だか人を引きつける馬でしてね、黒光のオーラが出てました。何故かわかりませんでしたがその子が来てくれたのがきっかけで会員さんもお客さんも本当に増えて、赤字から遠のいたこともありやっと牧場の基礎が出来てきました。人間、昔から馬には世話になっていますが、私たちも、この時 馬に助けられたなあって思いました。彼らがいなかったらこの牧場も運営できていないからね。今も昔も全部馬のお陰ですよ。
牧場内部

「現在、競馬場の馬を預かることはしていないようですが、運営はどのようにされているのでしょうか?」

ここの牧場は「黒潮友馬会」という競馬好きの会員さんが集まって牧場の支援をして下さっています。ここの牧場は入場料も無料ですし、乗馬をしてお金を取ることもしていません。営利目的で運営している牧場ではなく、馬たちが余生を楽しむために作った場所なので、しっかり休んで時間を楽しんでもらいたいんですよ。そのため、ほとんどが善意の寄付だけで運営しております。ありがたいことです。今、会員数は北海道〜九州までで180名ほどですね。前職を辞めて牧場を始めたのは59歳の時。当時は牧場への理解がなかなか難しかったのですが、本当に馬と会員さんのおかげで21年経った今でも運営ができております。
馬にタッチ

「簡単に1日の流れを教えて頂けますか?」

まずは朝の6時からご飯ですね。ご飯が終わると放牧を行なって部屋の掃除をします。主に木くずを入れ替えおしっこや糞の清掃をした後に、食事の準備をしているとあっという間に11時かな。その後部屋に戻して12時で馬たちに飼葉(かいば:おやつ)を摂ります。終わったらスタッフも少し長めの休憩を取って、午後は馬たちの運動とか面倒を見る時間ですね。元競走馬なので一般の方は難しいですけれど、たまに私たちが乗って走らせることもありますよ。運動不足も病気の種ですからね。そのため夏場はしっかり汗をかくことから毎日シャワーをしてあげます。ケアは毛並みを整えたり蹄のチェックをしながら、病気や怪我がないかを診ます。17時半からは夜の飼葉があり、その間もあらゆる場所の掃除で結構忙しいです。20時に夜食をあげて様子を見ていたらだいたい終わるのが21〜22時くらいでしょうか。もちろん普通の会社と違って馬たちの世話は年中無休なので、大好きな競馬も見に行けませんよ。笑
ねこ

「毎日世話をしているようですが、馬の気持ちは理解るものなのでしょうか?」

機嫌がいい時、眠たい時などは雰囲気で理解りますね。競走馬ということもあり、結構性格はキツイですよ。先ほど小屋を蹴るほど暴れた子がいましたが、あの子は隣の部屋の子のことを好いておりまして。放牧してからなかなか帰ってこないので機嫌を損ねたんだと思います。本当そういうところは人間と一緒ですよね。
馬チュー

「お世話の話に続くのですが、馬がかかりやすい病気はどんなものがありますか?」

馬は人間と同じで風邪も引きますよ。気をつけなきゃいけないのは、疝痛(せんつう:お腹の病気)ですね。馬は腸が長く30メートルくらいあるので腸の病気にかかりやすいんです。腸閉塞起こすこともあるし、腸捻転起こすこともあるし。ご飯を残したり、様子がおかしいなと思ったら獣医さんに来てもらって診てもらいますね。腹にガスが溜まっている場合もありますが、そういう時は運動をさせています。
馬搬入

「他に馬の飼育で気をつけていることはありますか?」

特に何かを気をつけているというより、全てのことに気を配っていますね。たとえば蕁麻疹が出たらちゃんと食べていなければ栄養も摂れてないし、食事の際に虫などを食べてることもあるし、夏は暑さで体力を消耗しやすいので蕁麻疹は出やすいとも言えます。後は、蹄(てい:ひずめ)は大事ですね。これ「蹄なくして馬なし」という言葉もあるくらい蹄は馬の第二の心臓と呼ばれているんですよ。細菌が入ったら死に至ることもありますから、蹄の手入れはしっかりとやっています。馬は言葉を喋らないので、人間が見て判断してあげないと死にいたることもあるのでね。
蹄ちゃん

「実際、馬の寿命は、どのくらいなのでしょうか?」

20年生きたら十分ですね。25歳まで生きたらすごい。今28歳の子がいるんですが馬で行ったら長寿の域ですね。うちでは31歳まで行きた子が一番長生きでした。天命全うした馬は遺影という形で鬣(たてがみ)を残し、身体は保健所で焼却しています。
馬単品

「今まで21年間牧場を開いてきた中で、”決して忘れられない”出来事はありますか?」

―−−−―全て忘れられませんね。死んでいった最初の馬から最近入ってきた馬まで、全て忘れられないです。ここで亡くなった馬はたくさんいますが、この世に存在していない今でもそこにいるようでして。でも彼らが死んでいくことに後悔はないです、私も娘も精一杯の力で接してきていますから。

「最後に、私は競馬を見ないのですが、競馬で馬券を買われている方のほとんどは馬の余生をイメージしていない方が多いのかな?という予想をしています。実際のところはどうなのでしょうか?」

始めた当初は、考えてない方が多かったですね。昔はマナーも悪かったし賭け事の世界だったからね。でも、武豊さんが出てきた影響で競馬に対する考え方がスポーツ化したことから、若い人も競馬に触れる機会が増えた気がします。その時代の流れだいぶイメージや関わり方も変わってきましたね。競馬界には本当に頑張ってる馬たちがいるからこそ、引退した彼らにはには少しでも長く生きてほしいです。
墓石と牧場

「ありがとうございました。今回の取材をを記事にすることで、少しでも多くの方に知っていただける機会にできればなと思います」

◆編集後記◆

ほとんどの競走馬たちが、引退(=殺処分)を余儀なくされている現実。濱脇さんのお話を伺う中で、「馬にはお世話になっている」という言葉が何度も飛び交ったが、私達の先祖が馬たちに助けられ生き延びたことを思うと、彼らが殺処分になることは他人事ではない思いに駆られた。縁あってこの牧場で暮らす馬たちだけでなく、競馬界を引退した彼らが、少しでも楽しく生きられる場所が増えればと思う。澄んだ空気にうぐいすの歌声が響くほど自然にあふれた土佐黒潮牧場。穏やかな目をする馬たちから元気をもらう取材となった。
おウマちゃんUP

◆濱脇敬弘さん◆

おっちゃん正面
土佐黒潮牧場の発起人。80歳。前職は建築士で、59歳で牧場の立ち上げを決心し今年で運営21年目を迎える。引退競走馬の引き取りを主にしており、現在牧場では16頭の馬たちが繋養。種牡馬、繁殖牝馬、競走馬としての務めを終えた馬たちが一頭でも多く幸福な余生を過ごすために活動している。

【土佐黒潮牧場関連ページ】
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コメント

  1. 初めまして。
    私は、引退競走馬の余生にほんの少し関わらせていただいている者です。
    今、引退馬の余生に関心を持つ方たちが、緩やかですが増えつつあると感じています。
    そして、引退馬用の養老牧場も増えてきています。
    私が所属している「引退馬協会」という団体でも、被災馬の救済や、引退馬に第2の馬生を与える為の就職活動支援、また現在も開催中ですが、引退馬達の写真展など、様々なことから引退馬の行く末を知って貰う活動をしています。
    でも、まだまだ知らない方が多いという現実があります。
    黒潮牧場さんは、あるお馬の事でお知り合いになり、良く存じ上げています。
    人間の楽しみのために、命を削って走るお馬たちのたどり着く先が処分というのは悲しすぎます。
    もちろん、全ての命を繋げることは、アラブの王様でも不可能です。
    それでも、大勢の人が手をつなげば、1頭でも2頭でも生きられるお馬が増える、そう信じています。
    今回の黒潮さんをきっかけとして、これからもどうぞ、引退競走馬の事を伝達して頂けたら幸いです。
    宜しくお願い致します。

    1. REAL VOICE より:

      ▼加賀屋様
      はじめまして、REAL VOICEの古川と申します。
      この度はコメントを頂きありがとうございます。とても嬉しいです。

      黒潮牧場さんは、あるメディアの記事をきっかけに取材させて頂くことになりました。牧場設立から20年間のお話を伺う中で、一頭一頭の馬たちに多くの人の関わりがあったからこそ、新たな人生の選択肢が増えたことを感じています。もちろんおっしゃられたように、全ての馬たちの命を繋ぐことは難しいと思いますが、少しでも多くの方に知って頂く機会になればこの上なく嬉しいです。

      当記事における引退馬たちのように、陽の光に当たらない動物たちが日本にはたくさんいます。今後は、保健所の動物たちや、盲導犬・聴導犬などにスポットを当てた取材活動を展開していく予定です。また特集を組むことになりましたら、その際はお声かけさせていただきたいと思います。

      この度は本当に温かいコメントを頂き、ありがとうございました。
      是非、今後ともよろしくお願いいたします。

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